前向け思考力。
平々凡々の女子高生と平々凡々の中坊の息子の平々凡々の母の不定期日記です。
サラくんの目。
僕にとっては、ほんの地方レースだった。
だからといって手を抜くような、
そんな失礼なレースを、僕が許すはずがなかった。
中央レースと同様、テンションはイツモノどおり、
背中に乗せるジョッキーも一流だった。当たり前だ。
僕はサラブレットだ。
胸を張り、ちょっと顎をあげて、鼻の穴をちょっと空け気味に、
軽く口を閉じ、誇らしげに、誇らしげに、僕はパドックを悠々と歩いた。
ジョッキーは何も話しかけなかった。 わかってる。
観客たちは、僕を見ている。 わかってる。 わかってる。
高らかにファンファーレが鳴った。
スタートの位置に着いた。
ぼくはサラブレッドだからスタートゲートは真々中。
ジョッキーは何も言わなかった。 わかってる。
でもジョッキーの声が聞こえる。 わかってる。 わかってる。
一瞬の静寂の後、レースは始まった。
レースは順調のはずだった。
これくらいの草レース、常にトップを走るはずだった。
でも、さっきから、僕の視野に誰かが入っては消え、繰り返す。
鬱陶しい。
僕はジョッキーを信じているからどんなやつが一緒に走ってるか、
なんて全然気にしてない。
でも、さっきから、なんか、なんか、ウザい。 おっと。
そいつがまた僕の視野に入ってきた。
誰なんだ。
ひどい歩調だ。ドッタバッタって・・・。
調子が狂う。
丈夫そうな・・・短い足。
顔が大きくてバランスが悪い。
毛も濃いい。
おなかもボコンっと大きい。
「こいつ・・・。・・・。・・・。・・・。ロバだ。」
ありえない、ありえない、僕みたいなサラブレットといっしょにロバ。
信じられない。
バックストレートを過ぎて第3コーナーを曲がった。
コーナーに入る直前にロバは僕よりちょっと内側をまわったので、
ありえないことに僕はロバにリードされていた。僕は焦った。
でもコーナーを周りながらもっとすごい事に気が付いた。
キリンがいる。
シマウマがいる。
なんだか毛の長いのもいる。 ラマかアルパカか。
そいつらがグングン迫ってくる。
サラブレッドの僕。パッカパッカ。
ロバの奴、ドッタバッタ。
キリン、ヒョ~ロヒョロ。
シマウマ、・・・鏡見たことあるのか?
ラマだかアルパカだかは、ナンかモグモグしている。
ひときわ角のでかい奴がいるが、ジョッキーを背負ってない。
そのかわり真っ赤なコートを着た白いひげの爺さんを、
そりで引いている。
なんだこいつら。
第4コーナーを廻って正面ストレートに入った。
レースの成り行きを見つめながら声も出せずに涙している男がいたが、
そんなことはどうだっていい。
僕はサラブレットとしてトップに上がらなくちゃ。
父の代から知っている調教師も観ている。
僕のオーナーはガラス張りの席から葉巻をくわえて観ている。
トップに・・・。
2周目に入るとロバも僕もちょっとアゴが上がってきた。
ロバはますます息が乱れ始めよだれを撒き散らす。
僕も息を乱した。キラキラとした汗が散り、
鬣がサラサラと揺れた。
第2コーナーを廻ってまた視界にロバが入ってきた。
その息はハンスハンスと乱れてよだれがこっちに・・・。
僕は焦った。
そのロバだけじゃない。
キリンもシマウマもラマだかアルパカも赤い鼻のアイツも、
必死こいて追いかけてくる。
こんな見世物みたいなレースに僕は焦っている。
負けるわけにはいかない。僕はサラ。
第3コーナーを周ったときにはもう、なにがなんだか・・・。
背中のジョッキーの声も何も聞こえない。
観客は馬券を握りしめて僕を観てる。
ロバは内側を行ったのでまたリード。
正面ストレートに入ってゴールが見えてきた。
ゴールだけしか見えない。
ロバから何だかわからないしぶきが飛んでくる。
”汚ねえな”ナンテ余裕もない。
もしかしたら僕もひどい走りなのかもしれないし。
でもそんな事はどうでもいい。
”勝ちたい!僕はこのレースに勝ちたい!”
・・・・・
気が付いたらジョッキーが観客に手を振っていた。
調教師も、葉巻のオーナーもご機嫌そうだった。
”勝ったのか?”
ウィニングランをしながらさっきまでのレースの事を考えた。
僕はサラブレット。父も母もサラブレット。
僕はロバに負けるところだった。
こんなに必死になったのは生まれて初めてかもしれない。
走ることは好きだった。
勝って褒められるのも好きだ。
今日はどうしても勝ちたいと思って必死に走った。
こんな気持ちにさせてくれたのはこのレースを共に走った者にしかわからない。
このレースなら、来年もう一度やってやってもいい。
ありがとう。
ジョッキーに顔を撫でられて、僕は速度を落として徐々に停まった。
さっきのロバはどんな様子だろう。
サラブレットの僕にあそこまで果敢に攻めたんだから、
悔しそうにしているに違いない。
もう一度挑戦したいと思っているに違いない。
泣いてるかもしれない。
僕は場内を見回した。
赤いコートの白ひげの爺さんが大きな袋から何か出して子供に配っていた。
爺さんは僕にもリボンつきの箱を差し出した。
ロバは・・・。端っこのほうで泣いてるかもしれない。
ロバは・・・黄色いタンポポの傍で、なにかわからないけど、
もしゃもしゃ食べていた。
風船が一つ空に上がっていくのを見つけて、
ロバは口から今食べたものをこぼしながら顔をあげた。
その顔には描いてあった。
次はどんな楽しい事が待ってるのかな~っ。と。
だからといって手を抜くような、
そんな失礼なレースを、僕が許すはずがなかった。
中央レースと同様、テンションはイツモノどおり、
背中に乗せるジョッキーも一流だった。当たり前だ。
僕はサラブレットだ。
胸を張り、ちょっと顎をあげて、鼻の穴をちょっと空け気味に、
軽く口を閉じ、誇らしげに、誇らしげに、僕はパドックを悠々と歩いた。
ジョッキーは何も話しかけなかった。 わかってる。
観客たちは、僕を見ている。 わかってる。 わかってる。
高らかにファンファーレが鳴った。
スタートの位置に着いた。
ぼくはサラブレッドだからスタートゲートは真々中。
ジョッキーは何も言わなかった。 わかってる。
でもジョッキーの声が聞こえる。 わかってる。 わかってる。
一瞬の静寂の後、レースは始まった。
レースは順調のはずだった。
これくらいの草レース、常にトップを走るはずだった。
でも、さっきから、僕の視野に誰かが入っては消え、繰り返す。
鬱陶しい。
僕はジョッキーを信じているからどんなやつが一緒に走ってるか、
なんて全然気にしてない。
でも、さっきから、なんか、なんか、ウザい。 おっと。
そいつがまた僕の視野に入ってきた。
誰なんだ。
ひどい歩調だ。ドッタバッタって・・・。
調子が狂う。
丈夫そうな・・・短い足。
顔が大きくてバランスが悪い。
毛も濃いい。
おなかもボコンっと大きい。
「こいつ・・・。・・・。・・・。・・・。ロバだ。」
ありえない、ありえない、僕みたいなサラブレットといっしょにロバ。
信じられない。
バックストレートを過ぎて第3コーナーを曲がった。
コーナーに入る直前にロバは僕よりちょっと内側をまわったので、
ありえないことに僕はロバにリードされていた。僕は焦った。
でもコーナーを周りながらもっとすごい事に気が付いた。
キリンがいる。
シマウマがいる。
なんだか毛の長いのもいる。 ラマかアルパカか。
そいつらがグングン迫ってくる。
サラブレッドの僕。パッカパッカ。
ロバの奴、ドッタバッタ。
キリン、ヒョ~ロヒョロ。
シマウマ、・・・鏡見たことあるのか?
ラマだかアルパカだかは、ナンかモグモグしている。
ひときわ角のでかい奴がいるが、ジョッキーを背負ってない。
そのかわり真っ赤なコートを着た白いひげの爺さんを、
そりで引いている。
なんだこいつら。
第4コーナーを廻って正面ストレートに入った。
レースの成り行きを見つめながら声も出せずに涙している男がいたが、
そんなことはどうだっていい。
僕はサラブレットとしてトップに上がらなくちゃ。
父の代から知っている調教師も観ている。
僕のオーナーはガラス張りの席から葉巻をくわえて観ている。
トップに・・・。
2周目に入るとロバも僕もちょっとアゴが上がってきた。
ロバはますます息が乱れ始めよだれを撒き散らす。
僕も息を乱した。キラキラとした汗が散り、
鬣がサラサラと揺れた。
第2コーナーを廻ってまた視界にロバが入ってきた。
その息はハンスハンスと乱れてよだれがこっちに・・・。
僕は焦った。
そのロバだけじゃない。
キリンもシマウマもラマだかアルパカも赤い鼻のアイツも、
必死こいて追いかけてくる。
こんな見世物みたいなレースに僕は焦っている。
負けるわけにはいかない。僕はサラ。
第3コーナーを周ったときにはもう、なにがなんだか・・・。
背中のジョッキーの声も何も聞こえない。
観客は馬券を握りしめて僕を観てる。
ロバは内側を行ったのでまたリード。
正面ストレートに入ってゴールが見えてきた。
ゴールだけしか見えない。
ロバから何だかわからないしぶきが飛んでくる。
”汚ねえな”ナンテ余裕もない。
もしかしたら僕もひどい走りなのかもしれないし。
でもそんな事はどうでもいい。
”勝ちたい!僕はこのレースに勝ちたい!”
・・・・・
気が付いたらジョッキーが観客に手を振っていた。
調教師も、葉巻のオーナーもご機嫌そうだった。
”勝ったのか?”
ウィニングランをしながらさっきまでのレースの事を考えた。
僕はサラブレット。父も母もサラブレット。
僕はロバに負けるところだった。
こんなに必死になったのは生まれて初めてかもしれない。
走ることは好きだった。
勝って褒められるのも好きだ。
今日はどうしても勝ちたいと思って必死に走った。
こんな気持ちにさせてくれたのはこのレースを共に走った者にしかわからない。
このレースなら、来年もう一度やってやってもいい。
ありがとう。
ジョッキーに顔を撫でられて、僕は速度を落として徐々に停まった。
さっきのロバはどんな様子だろう。
サラブレットの僕にあそこまで果敢に攻めたんだから、
悔しそうにしているに違いない。
もう一度挑戦したいと思っているに違いない。
泣いてるかもしれない。
僕は場内を見回した。
赤いコートの白ひげの爺さんが大きな袋から何か出して子供に配っていた。
爺さんは僕にもリボンつきの箱を差し出した。
ロバは・・・。端っこのほうで泣いてるかもしれない。
ロバは・・・黄色いタンポポの傍で、なにかわからないけど、
もしゃもしゃ食べていた。
風船が一つ空に上がっていくのを見つけて、
ロバは口から今食べたものをこぼしながら顔をあげた。
その顔には描いてあった。
次はどんな楽しい事が待ってるのかな~っ。と。
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